2005.08.22 Monday
水源の森
総選挙に向けての、かつてない政治劇がマスコミを通じて報じられる中、夏休みを頂き、家族と上越国境の森へ出かけました。利根川の源流域です。我が家では毎年、少ない予算で十分楽しめるキャンプをメインにした夏休みを家族で過ごします。たった2泊3日程度のものですが、日頃のドタバタの中で溜まった疲れや、心と脳みその目詰まりを抜くには、大自然のエネルギーを身体全体で吸収することが一番。今回は、中越地震への支援活動で何度か通過するうちに、車窓から眺めて気になっていた、群馬県と新潟県の県境に広がる、豊かな森を選びました。
ここ数年はバンガローに頼っていましたが、今年は原点に返って、テントを使った野営でした。ロケーションが命。ブナの森が広がり、清冽な沢が流れ、文明の利器はなく、車も入ってこない・・・。つまり、水源の森に位置する沢べり。地図をよく読めば、おおよそその場所がどんなところか、水はありそうか、見当がつきます。出発の前日にみつけた、一山超えれば尾瀬の広がる、利根川の最上流の野営地に決めました。
水上のインターから約1時間の距離。素晴らしい渓谷美の展開する渓流の奥に、そのサイトはありました。駐車場から少し離れているために誰もテントを張っていない、美しい沢沿いの草地にテントを設営。いや、ほんとに良い所でした。周囲は全てブナを中心とした原生林。沢の上を、無数のトンボが飛び交っています。
日頃の家事から解放された妻は、テントの中でさっそく昼寝。私は二人の子どもを連れて、すぐ後ろに展開する散策路を辿り、沢筋や森のなかを散歩。ゆっくりと噛み締めるように、この素晴らしい自然の息吹を身体に取り込みました。子どもたちも、無数の巨大なブナに囲まれ、神妙に山道を歩いていました。
息子を連れて水汲みに出かけたり、一緒にトンボを捕まえたり、特製の野菜カレーを家族で作ったり、森の向こうから昇ってきた月を眺めたり。朝もやの沢筋の森を、子どもたちと散歩したり。無条件に、この貴重な時間を堪能しました。
それにしても、この上越国境の水源の森の豊かさはどうでしょう。ブナはどんどん世代交代が行われており、森の至る所から湧き出す水の量はたいへんなものがあります。ここに入るだけで、自分のいのちが洗われる。
恐らく、過去の話を聞くと、足柄平野を取り巻く広大な山林も、かつては照葉樹の豊かな森であり、かなり上流まで沢の水量は豊富であったこと、その恵みを受けて足柄平野も水に恵まれた豊かな大地であったことが伺えます。しかし、今は、照葉樹の自然林はほぼ皆伐され、植林された針葉樹も市況の低迷と共に荒廃、谷筋は無残なほどに涸れ上がっています。今では地下水のレベルでも水位が下がり、海水がだいぶ内陸まで入り込んでいるといわれています。
清浄な空気と水。豊かな生態系。肥沃な大地と、そこからの豊かな恵み。これだけで、人の根源的な幸せというものはかなり満たされるのではないかと、私は思っています。少なくともかつてはそれを有していた、そして時間を掛ければ取り戻せる可能性が残る、このあしがらの大地にも、上越の水源の森と同じような、豊かな空間を取り戻したいと、願わずに入られません。
余談ですが、この地域は、森や水の自然環境が豊かであること、温泉も豊富、農産物も豊富、文化遺産も豊富ということで、そういった資源をうまく育て、演出した地域づくりが行われています。短い時間では全然回りきることが出来なかったので、また別の機会にじっくり訪ねてみたいと思いました。