加藤けんいち日記

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夏の葛巻


 7月21日・22日と、岩手県葛巻町を訪ねた。前町長、遠藤治夫さんと会うためだ。
 最近、葛巻町はマスコミに取り上げられることが増えた。クリーンエネルギーを多様に取り入れた町おこしはわが国随一で、電力の地域内発電量は、地域内電力需要の185%にも達する。すべての地域内発電量をそのまま地域内で消費することができないため、厳密な意味のエネルギー自給を達成しているわけではないが、法制度が変わりインフラが整えば、この町は完全に自立が可能だ。ちなみに、酪農がさかんであり、カロリーベースでの食糧自給率は200%を越えている。
 クリーンエネルギーによって地域を創っていこうとの方針を決定付けたときの町長が、遠藤さんだった。きっかけは、産廃処分場の建設計画。それを永久にストップするべく、設置を容認する当時の町長に対し住民たちに町長候補として担がれたのが遠藤さんであった。たった1ヶ月の選挙活動ながら、見事に当選を果たす。
 地方の山間の過疎地には、その経済的な弱さにつけこんで産廃業者が入り込むスキが生まれやすい。遠藤さんたちは、当選後に改めて住民たちに「葛巻は何で生きていくのか」「何を大事にするのか」というアンケートを行い、総意を問うた。その結果が、「豊かな自然とともに生きてゆく」という覚悟だった。おりしも、京都議定書が採択され、自然エネルギーの推進へ取り組みが始まっていた。一年中風速6メートル以上の風が吹く北上高地に位置する葛巻に持ち込まれた、風車建設の話を、遠藤さんたちは一気呵成に実現に持ち込んだ。
 その間も、環境問題に詳しい東北大の齋藤教授らの力を借りて、「葛巻町新エネルギービジョン」を策定。風力だけでなく、お荷物だった畜糞尿、無尽蔵にある木質資材や沢水、そして太陽光を含めた「天のめぐみ」「地のめぐみ」をフルに活かし、そこに「人のめぐみ」を加えて、葛巻の地域づくりを進めるビジョン。それによって、様々なクリーンエネルギーのプラント作りが着手されていった。
 クリーンエネルギーだけではない。それまで手がけてきた酪農事業、自生する山葡萄を原料に粘り強く製品化を目指してきたワイナリー事業などが実を結び始め、葛巻は「ミルクとワインとクリーンエネルギーの町」として、ブランド構築に成功する。今では、自治体関係の視察者を含め、年間50万人がこの町を訪れるそうだ。



 遠藤さんに、いろいろと案内をして頂いた。最初に設置された3基の風車。おばちゃんたちが運営する地そばの店。ワイナリー。平庭高原のシラカバ林。沢水でまわる水車。木質ペレットを熱源とするボイラーシステム。12基の巨大風車。くずまき高原牧場。多様な乳製品加工工場・・・。
 多様なプラントもさることながら、やはり葛巻の自然に魅了された。初日こそ濃霧と雨だったが、二日目は雲が切れ、澄んだ青空が広がる。山肌を覆う若い落葉照葉樹の輝き。渓流の美しさ。牧草地の緑・・・。遠藤さんは「冬は雪だし、暮らすには楽じゃないよ」と呟く。
 NPO「森と風のがっこう」が、小学校分校の廃校跡を利用して、活動を定着させている。環境教育、生活教育、様々なエコ・ワークショップ、芸術活動。各地から来訪者を迎えている。これも、葛巻のブランドイメージと、自然の素晴らしさの賜物と思う。
 
 とはいえ、葛巻の自治体としての運営は厳しい。財政力指数は0.18。ここ数年で歳入は20億も減り、現在は50億を切る。町立の病院は院長が辞職し、医師は極端に不足している。遠藤さんは「今やれと言われても、ちょっと厳しいな・・・」と言うほど。町おこしでブランドイメージの定着と外部へのPRは大成功をしたが、町内の様々な課題をどう解決してゆくのか。昨日告示だった町長選挙が、この日曜に投票だ。葛巻の挑戦を見守りたいと思う。
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